「美容ナースって、きついらしいよ」 「ノルマがすごいって聞いたけど、本当かな……」
美容クリニックへの転職を考えて検索すると、こういう言葉によく出会いますよね。そのたびに、気持ちがしぼんでしまう。そんな方が、この記事にたどり着いてくださったのだと思います。
私は看護師19年目です。総合病院の病棟から美容クリニックに移り、美容の現場には15年います。大手のクリニックで長く働いたあと、今は個人のクリニックにいます。大手と個人、どちらも経験しているので、その違いもあわせてお話しできればと思います。
先に、正直な結論をお伝えします。美容ナースは、きついです。 ただ——ここが大事なところなのですが、「入りたての頃のきつさ」と「何年か経ってからのきつさ」は、まったく別ものでした。
そして噂の「ノルマ」については、私が働いた大手でも個人でも、看護師ひとりに課される個人ノルマは、ありませんでした。 この記事では、その代わりに何があったのかも、包み隠さずお話しします。
入りたての頃、きつかったこと3つ
まずは、美容クリニックに移ったばかりの頃の話から。当時の私がきついと感じたのは、この3つでした。
① 覚えることが、とにかく多い
いちばんはこれです。施術の種類、機械の使い方、化粧品の知識、カウンセリングの流れ——覚えることが次から次に出てきます。
私の場合、試用期間の3か月が終わっても、まだ覚えきれていませんでした。 そこからさらに3か月ほど、仕事のある日は始業前か終業後に1時間ほど時間をとって、覚える作業を続けていました。
やっていたことは、とても地味です。
- とにかくメモを取り、あとで自分用にまとめ直す
- 次に自分ひとりでできるように、写真を撮ったり、絵を描いたりして残す
- その日「忘れていてできなかったこと」を、忘れないうちにその日のうちに書き留める
- 合っているか不安なこと、あいまいなことは、そのままにせず先輩に聞いて確認する
つまり、教科書がないなら、自分で作るしかなかったのです。半年ほどこれを続けて、ようやく人並みに動けるようになりました。
ここを「きつい」と取るか、「半年でなんとかなるのか」と取るかで、印象はずいぶん変わると思います。私は今ふりかえると、後者だったな、と感じています。
② 病棟とは「種類の違う」忙しさ
美容クリニックは、予約がぎっしり入ります。しかも、施術の時間が細かく区切られています。
そうすると、何が起きるか。誰かの施術が少し延びたり、お客様の到着が遅れたりするだけで、次に対応できる人がいなくなってしまうんです。 さらに、当日になって手術や施術が追加になることもあります。
病棟の忙しさは、急変や緊急入院のような「予測できない波」に振り回される忙しさでした。美容クリニックの忙しさは、きっちり組まれた予定を、ズレないように回していく忙しさです。同じ「忙しい」でも、体にかかるストレスの種類が違います。
正直にお伝えすると、休憩が取れない日もありました。「美容クリニック=優雅」というイメージだけで入ると、ここは戸惑うかもしれません。
③ 休みが少なく感じた
美容クリニックは、お客様が来やすい土日や祝日こそ忙しくなります。世の中がお休みのときに働くことになるので、慣れるまでは「休みが少ない」と感じました。
夜勤がなくなったぶん生活リズムは整いましたが、休みの「量」ではなく「タイミング」が変わる——ここは事前に知っておくと、ギャップが小さくて済むと思います。
「ノルマがきつい」は本当? 実際のところ
さて、いちばん気になっているであろう話です。
私が働いた大手でも、今の個人クリニックでも、看護師ひとりに課される個人ノルマはありませんでした。 「今月あなたは○円売ってきて」というものは、なかったということです。
ただし、クリニック全体の「売上目標」はありました。 ここは正直にお伝えしないといけません。
特に大手のときは、かなり具体的でした。前の年のデータをもとに、120%の成長を基本として年間の目標を立て、それを月ごとに割り、さらに1日ごとの目標にまで落とし込まれていました。しかも「美容外科でいくら、美容皮膚科でいくら、化粧品などの物販でいくら」と、分野ごとに分けて設定されていたのです。
数字が細かく見える環境である、というのは事実です。
では、目標に届かなかった月はどうなるのか
ここが、みなさんがいちばん不安なところですよね。
目標に届かなくても、個人が責められることはありませんでした。 これは大手でも個人でも同じです。
そして、大手にいたときは——そもそも目標に届かなかった経験が、ほとんどありませんでした。 理由はシンプルで、広告にしっかり費用をかけていたからです。集客に苦戦するということが、あまりない仕組みになっていました。届かない月があったとしても、いわゆる閑散期くらいのものでした。
一方、今いる個人クリニックは事情が違います。広告に大きな費用をかけられるわけではないので、売上が急に伸びることはありません。「どうすれば継続的にお客様に来ていただけるか」を、日々みんなで考え続けています。
つまり、こういうことです。
| よくあるイメージ | 私が経験した実際 |
|---|---|
| 個人にノルマがあって、達成できないと詰められる | 個人ノルマはなし。未達で責められることもなかった |
| ノルマがないなら、数字とは無縁 | クリニック全体の売上目標はある。分野ごと・日ごとに細かく設定されることも |
| 大手のほうが数字のプレッシャーが強い | 大手は集客の仕組みがあるぶん、未達自体が少なかった |
ポイントをまとめると——「個人が詰められるきつさ」ではなく、「クリニック全体で数字を追う環境に身を置くきつさ」だと言えます。この空気を面白いと感じるか、しんどいと感じるかは、本当に人それぞれです。
何年か経つと、きつさの中身が変わります
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたい部分かもしれません。
覚えることを覚えて、現場に慣れて——それで楽になるのかというと、そうではありませんでした。きつさの中身が、まるごと入れ替わったのです。 今の私がきついと感じるのは、この3つです。
① 経営のことを考えないといけない
看護師として目の前の人にきちんと向き合う、それだけでは終わりません。クリニックが続いていくために、どうすればいいか。そこを一緒に考えることが求められます。
病棟にいた頃の私には、まったくなかった視点です。「与えられた仕事をこなす」から「クリニックをどう続けるかを考える」へ——この切り替えは、正直、簡単ではありませんでした。
② 看護師の仕事の範囲を超えた仕事がある
これは、入る前にはあまり想像していませんでした。私が実際に関わってきたものを挙げてみます。
- 受付や電話対応
- お会計
- YouTube用の素材の管理
- LINEでの配信
- 料金表の作成
看護の仕事だけを想像して入ると、「聞いてなかった!」となる部分だと思います。小さなクリニックほど、この傾向は強くなります。
ただ、これを「雑用が多い」と取るか、「クリニックづくりに関われる」と取るかで、見え方はずいぶん変わります。私は今、後者に近い気持ちでいます。
③ 少人数ならではの人間関係
今の職場は少人数です。少人数の職場は、逃げ場がありません。だから、関係が保たれるように、日々気をつけています(笑)。
これは大変ではありますが、大手にいた頃の悩みとはまた別ものです。当時は役職についていたので、クリニックの方針には従いながら、スタッフから出てくる不満にも理解を示す——そのあいだに挟まれている状態が、いちばん苦しかったように思います。
大手時代、いちばんつらかったギャップの話
もうひとつ、これは大手で働く方に知っておいてほしいことです。
私がいた大手のクリニックは、「たくさんの方に来ていただき、価格をできるだけ抑える。そのぶん材料を大量に仕入れる」という考え方で運営されていました。スーパーやチェーン店の経営でよく使われる、量でコストを下げる仕組みです。
利用する側から見れば、とてもありがたい仕組みです。ただ、働く側から見ると——ひとつの施術にかけられる時間が、ぎりぎりまで削られるということでもありました。
お客様お一人おひとりに、じっくり時間をかけたい。肌の状態を見て、おうちでのスキンケアのアドバイスもしてさしあげたい。でも、それができない。「やりたいこと」と「できること」のあいだにあるギャップが、私にとってはいちばんつらい部分でした。
だから、これから転職を考える方には、ぜひ見てほしい視点があります。そのクリニックが「たくさんの方に速く」なのか、「お一人にじっくり」なのか。 求人票の給料や休日だけでは分からないところですが、あなたが長く続けられるかどうかは、案外ここで決まります。
それでも「病棟より楽になった」と感じること
きつい話が続いたので、正直な「楽になったこと」もお話しさせてください。
まず、力仕事が減りました。 これは単純に大きいです。体位変換や移乗で腰に負担をかけ続ける毎日とは、体の消耗がまったく違います。
そして、医師がすぐそこにいます。 美容クリニックは、医師と同じエリアで働いています。確認したいことがあれば、その場で聞けるのです。
これ、当たり前のようでいて、実はすごいことだと思いませんか。病棟では、外来や手術に入っている先生にすぐ指示をいただきたくても、つかまらない。そのあいだ、患者さんを待たせてしまう。あの気をもむ時間が、今はありません。あのストレスがなくなったことは、思っていた以上に大きかったと、今になって感じています。
それでも15年続けられた、2つの理由
きついのに、なぜ続けてこられたのか。自分なりに考えると、理由は2つあります。
ひとつは、評価が給料にきちんと反映されたことです。
大手にいたときは、評価制度が明確でした。がんばりが評価され、それが自分のお給料に返ってくる。それがモチベーションの継続につながっていました。
正直にお伝えすると、転職して1年目は給料が下がりました。夜勤手当がなくなるので、これは仕方がありません。でも、2年目以降は上がっていきました。
病棟にも評価制度はありました。ただ、それが何に反映されているのか、私にはよく分からなかったのです。この違いは、思っていたよりずっと大きなものでした。(お金の話は、次の記事でくわしく書きますね)
もうひとつは、学ぶことに終わりがないことです。
美容皮膚科の分野は、シミ・たるみ・毛穴と、お悩みごとにさまざまな治療があります。しかも、新しい治療がどんどん出てきます。学び終わることが、ありません。
大変そうに聞こえるかもしれません。でも私にとっては、これが探究心につながっています。そして——続けて通ってくださったお客様に、きちんと成果が出たとき。あの瞬間は、本当にうれしいです。
看護師として、ひとつ。 「きつい」という言葉だけで、選択肢を消してしまわないでほしいのです。どんな職場にも、きつさは必ずあります。大切なのは、そのきつさが、自分にとって納得できる種類のものかどうか。夜勤の疲れと、覚えることの多さ。どちらがあなたにとって耐えられるか——そういう比べ方をしてみてください。答えは、人によって違って当たり前ですから。
まず、やってみるといい小さな一歩
「きついかどうかは、結局その職場によるんでしょう?」——そう思われたなら、それは正解です。
だからこそ、おすすめしたい小さな一歩があります。気になるクリニックのホームページを開いて、料金と予約の枠を見てみること。
価格が安く、予約枠が細かく区切られていれば、「たくさんの方に速く」のクリニックです。価格が高めで、一人あたりの枠がゆったりしていれば、「お一人にじっくり」に近いはずです。
たったこれだけで、そこで働く自分がどんな1日を過ごすのか、かなり見えてきますよ。
まとめ
長くなったので、要点だけ振り返ります。
- 美容ナースは、きついです。 ただし1年目のきつさ(覚える量・時間に追われる忙しさ)と、数年後のきつさ(経営視点・看護以外の業務・人間関係)は別ものです
- 個人ノルマはありませんでした。 ただしクリニック全体の売上目標はあり、数字が身近な環境ではあります
- きつさの正体は、案外「そのクリニックの方針と、自分のやりたい看護が合っているか」です。求人票より、料金と予約枠を見てみてください
きつさをゼロにすることはできません。でも、自分が納得できるきつさを選ぶことなら、できます。あせらず、あなたに合う場所をじっくり探していきましょうね。
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